CULTURE & LIFE
外山夏緒さんの物語の連載【誰かの話】42話めは、「走馬灯のように流れていく思い出」のお話です。
42. 思い出のリスト
先ほど車に轢かれかけたという友人のモン君が
ものすごく深刻な顔をしながら
いま、僕の家でカルピスを飲んでいる。
なにやら車に轢かれそうになった瞬間に
いわゆる走馬灯のように思い出が駆け巡ったそうなのだが、
「昔、同じクラスの好きな女の子と席が隣同士になったのに
テスト中に大きな音でオナラをしてしまった」
という恥ずかしい思い出だけがモン君に押し寄せてきたのだそうだ。
「一番消したいと思っている醜い思い出を抱きながら
あの世に行くとこだった」
と、モン君は焦りを覚え、
こういう時に突然出くわす思い出というものは
あらかじめいくつか準備しておかなければいけないのだと
モン君はノートを出し、
「いざという時に思い出したい思い出リスト」を作りはじめた。
彼のノートをのぞくと、モン君にとって
それはそれは良い思い出が書き連ねられていた。
僕が見る限り、その中の思い出のうち、
40%は本当にあった思い出だけど、
30%は明らかにモン君が捏造した思い出で、
20%はきっとモン君が夢で見た思い出で、
10%は元気づけるために僕がモン君に言い聞かせて
改ざんした思い出であった。
本人にとって良い思い出ほど不確かなものはなく、
どうせモン君が再び同じような目に遭う時は結局、
彼にいつまでもこびりついている
「初めて憧れのバーに行き、気取った振る舞いで注文したのはいいが、
”マティーニ”のことをずっと”マタニティ”と言っていた」
あたりの恥ずかしい思い出がモン君に去来するだろう。
モン君が僕の家に来てから一時間半ほど経ち、
ようやく落ち着きを取り戻したので、
僕たちは明日から行くキャンプの準備に取り掛かり始めた。
・・・
絵をはじめ、詩や物語の制作、それらで展開したインスタレーションを行うなど、多岐にわたって活動をしている、gungulparmanの外山夏緒さん。この連載は、彼女が自身のWEBで発表していた「誰かの話」を「ラジオと火星人とコーヒーフロート篇」として、新たにグラフィック作品を加えてお届けしていきます。この世界のどこかにいるかもしれない「誰か」の日常を切り取ったお話を、お楽しみください!
Text & Illust_Toyama Natsuo
外山夏緒
2015年より、絵や詩、物語で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。他、イラストレーション、空間装飾、グラフィックデザインなどで活動中。その他、自身のプロダクトブランドgungulparmanでの商品制作やアートワークなども行う。
WEB:gungulparman.com
Instagram:@gungulparman
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