CULTURE & LIFE
外山夏緒さんの物語の連載【誰かの話】12話めは、「とあるおじさんとシンタロウ」のお話です。
12. 名前のない思い出
一年くらい前から
シンタロウが住む街の噴水がある広場で、
おじさんがひとり、阿波踊りを踊っている。
夕方になると、その広場に必ず現れて、
おそらくカバン代わりに持ち歩いているスーパーの袋をそばに置いて、
シンタロウが仕事から帰る頃にも、そこを通り過ぎる人に向けて、
おじさんは阿波踊りを披露している。
今日は雨だけど、
おじさんはいつもと変わらず、黙々と阿波踊りを踊っていた。
雨は雨でも、今日の雨はわりかし冷たい雨で、
汗と雨にやられたおじさんの、やや薄めの髪の毛の異様な様と、
雨に濡れたカバン代わりのスーパーの袋がきらめく様と
阿波踊り中におじさんの吐く息が自家製スモークのように舞う様とで、
奇妙な阿波踊りのおじさんの奇妙さが一層際立っていた。
「雨」という天気に背中を押され、シンタロウは単なる興味本位で、
「おつかれさまです」
と初めて一言、阿波踊りを踊っているおじさんに向けて声をかけた。
おじさんはシンタロウの方を振り向き、
ここで踊りはじめてから、初めて声をかけられたと
無邪気に喜んだ。
阿波踊りのおじさんは、シンタロウに
「二十年前の今頃、
隣街にある百貨店の入口でピエロをしていました」と教えてくれた。
シンタロウは、阿波踊りのおじさんに
「二十年前の今頃だったら、
僕はこの街に生まれた頃です」と教えた。
そして阿波踊りのおじさんは
おそらくカバン代わりに持ち歩いているそのスーパーの袋の中から、
飴玉を出して、
ひとつシンタロウにプレゼントしてくれた。
雨が降る日の、街の噴水がある広場での、
シンタロウと阿波踊りを踊るおじさんとの、
束の間の思い出。
絵をはじめ、詩や物語の制作、それらで展開したインスタレーションを行うなど、多岐にわたって活動をしている、gungulparmanの外山夏緒さん。この連載は、彼女が自身のWEBで発表していた「誰かの話」を「ラジオと火星人とコーヒーフロート篇」として、新たにグラフィック作品を加えてお届けしていきます。この世界のどこかにいるかもしれない「誰か」の日常を切り取ったお話を、お楽しみください!
Text & Illust_Toyama Natsuo
外山夏緒
2015年より、絵や詩、物語で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。他、イラストレーション、空間装飾、グラフィックデザインなどで活動中。その他、自身のプロダクトブランドgungulparmanでの商品制作やアートワークなども行う。
WEB:gungulparman.com
Instagram:@gungulparman
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