CULTURE & LIFE

 

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まるで音楽そのもの。そんな自由奔放な表現力と圧倒的な歌の力で、ここ数年、注目を集めてきたミュージシャン、中村佳穂。これまでは音楽界で注目されていた彼女が、思いがけない形で世界に紹介されることになった。日本のアニメーションを代表する細田守監督が中村の才能に惚れ込み、最新作『竜とそばかすの姫』のヒロイン、すず役とベル役に抜擢。しかも、劇中で歌も披露することに。演技初体験だった中村は、どんな想いで映画に挑戦したのか。映画を通じて発見した新しい自分。そして、六法全書を片手に男子と渡り合っていた少女時代のことや、この大変な時代に歌う喜びなど、映画と音楽についてたっぷりと語ってくれた。

 

ー細田監督とはオーディションを受ける前から面識があったそうですね。

2年前くらいに、奈良のNAOTという靴屋さんで折坂悠太くんとライヴをやったんです。その時、楽屋に一升瓶のお酒が届いて、店長が「細田さんからだよ」って。まさか細田監督じゃないよね?と思っていたら、ライヴが終わった後に、ご本人が「こんにちは」って入って来られて「本物だっ!」て驚いたんです(笑)。監督は直前まで新潟にいらしたみたいなんですけど、ライヴが観たくなって新潟のお酒をお土産に買って来てくれたんです。監督は打ち上げに参加されて、夜中の2時までみんなで楽しくおしゃべりをしました。その時は監督とはそんなに喋らなかったんですけど、その後も演奏を観に来て頂いて、音楽が好きな方なんだなあって思っていたんですよね。

 

ーその後、監督とは何度かお会いになったんですか?

監督には2回お会いしたんですけど、そんなに話はしていなくて。「次作、作っているんですか?」「そうなんだよ」「楽しみにしてます!」くらいでした。だから、「声優のオーディションを受けに来て欲しい」って言われた時は、「えーっ!? 無理無理!」って感じでしたね。でも、監督はわざわざライヴを観に来てくださってるし、私がオーディションに行かないのは失礼だなと思ったんです。私がオーディションに参加することで、たとえ選ばれなくても少しでも作品にプラスになるんだったら、と思ったんです。

 

 

ーオーディションはどんなことをしたんですか?

すずとベルのセリフをいくつか読んで、課題曲の「マイウェイ」を歌いました。あの有名なスタンダード曲を日本語訳で歌ったんです。スタジオのレコーディングブースで歌ったので、外の様子がわからなかったんですけど、後で聞いたらスタッフの皆さんが「ライヴだー!」って盛り上がっていたみたいで(笑)。歌い終わった後、細田監督がブースに入って来て「やっぱ、この映画は歌だね!」って喜んでくれたんです。それを聞いて、力になれたみたいで良かった!と思いました。

 

©2021 スタジオ地図

©2021 スタジオ地図

 

ーでも、そこからが始まりだったんですね。主役に決まった時はどう思われました?

オーディションに参加した時から、演技経験もないのにいいのかな? と思ってたんです。すず役に決まった時、監督とZOOMで話をしたんですけど、「すずは佳穂ちゃんだと思う」と言ってくださって。監督と話をしているうちに、監督が決めたというだけではなく、作品が私に決めたということなんだなって思ったんです。だったら、私がとやかく言うことじゃないので、「やれるだけのことは全部します!」って監督に伝えました。

 

ー覚悟を決めて飛び込んだ。役作りは大変でした?

アフレコをしながら、すずに対するイメージは毎日、変わっていきましたね。最初の頃はなんですずが怒っているのかわからないこともあって。だから、その都度、監督と話をしました。そこで監督からすずらしさをディレクションされるというより、すずがどういう女の子か一緒に探しているっている感じでした。もしかしたら、監督のなかには答えがあって、そこに導いてくれていたのかもしれませんが、監督はいつも私の話をしっかり聞いてくれたので安心してすずに集中することができました。ただ、演技経験がない私が選ばれたということは、演じる、ということを意識したらだめなんだと思って、できるだけ最後まで素のままでいようと思っていたんです。

 

©2021 スタジオ地図

 

ーでも、今回はすずだけではなく、ベルという役も演じなければならないのが大変ですね。ベルはすずのアバターですが、演じるうえで違いはありました?

最初は中身は同じなんだから、そんなにキャラクターは変わらないんじゃないの?って思っていたんです。でも、試しにゲームをやって、筋肉ムキムキのキャラクターのアバターを作ってみると自分が強くなったような気がして、弱いキャラをバンバンやっつけようという気になったんです(笑)。それでアバターに影響を受けることってあるんだ、と実感して。そこで考えたのが服を変えることでした。服の力を借りれば、演技しなくても自然と性格がかわるんじゃないかと思って。

 

ー女性は特にそうかもしれないですね。

監督は「ベルは良い女なんだ」とおっしゃっていたので、とりあえず、これまで持っていなかったパンプスを買ってみたんです。そして、女子高生っぽい服もあったほうがいいと思ってフレッドペリーのスニーカーも買って。ベルの声を入れる時はパンプス、すずの時はフレッドペリーを履くようにしていました。そうすると自然とセリフの出し方が違ってくるんですよね。

 

ーそうなんですか! 面白いですね。

これまで私の中に「良い女」っていうキャラクターはなかったので、靴を買う時は相当考えましたね。どんな靴を履いたら良い女になれるんだろうと思って。それでボッテガのパンプスを買ったんです。「やっぱり、イタリアの靴は違うな!」って思ったりして(笑)。そうやってテンションがアガるような小道具を選んで、後は自分の気持ちに素直に向きあうことを大切にしたんです。そうしているうちに、共演者のみなさんとセリフをやりとりするなかで、自然にセリフが出るようになりました。

 

©2021 スタジオ地図

 

ー歌のシーンに関してはいかがでした? キャラクターとして歌う、というのは初体験だったと思いますが。

ベルは<U(ユー)>と呼ばれている仮想世界のキャラクターなんですけど、<U>の住人がベルの歌を聴いて「変な歌だけど、めちゃくちゃ感動する」って言うんです。でも、脚本に書かれていた歌の歌詞は、結構、ストレートな表現だったんですよね。私が書く歌詞は「変わってる」と言われることが多いので、こんな歌詞にしたら変に思われるんじゃないですか? という提案を監督にしました。すずのひたむきさや、最初に監督が書いた歌詞のストレートさも活かしつつ、そこに私らしさを加えていったんです。だから違和感なく歌うことができましたね。

 

ー歌詞に中村さんのエッセンスが混ざっているんですね。すずは自分の中にわだかまりがあって人前で歌えない、というシャイな女の子でしたが、中村さんは10代の頃はどんな女の子だったのでしょうか。

ちょっとおかしな子で、六法全書を持ち歩いてましたね。

 

ー六法全書!?  どうしてそんなものを?

男子に悪口を言われたら、法律を引き合いに出して言い返してやろうと思っていたんです。あと、ヒエログラフっていうエジプトの古代文字を読もうとしていたり、休憩時間になったら音楽室でピアノを弾いてました。でも、キャピキャピした子たちとも遊んでいて、どんな集団にも顔を出すような子でした。

 

ー歌はずっと好きだったんですね。

物心ついた時から歌ってましたね。幼稚園児の時は車の中で3時間くらい歌ってました。好きな歌を歌って、飽きたら思いついたオリジナルソングを歌ってたんです。幼稚園の頃は自分は歌の天才だと思ってました。自分が一番気楽にやれて一番楽しいのは音楽だっていうのは、その頃から感じていましたね。絵を描くのも好きだったので、将来は絵か音楽かどっちかをやりたいと思っていたんです。

 

 

ーそして、音楽の道に進んだ。迷ったり、心が折れそうになったりすることはありませんでした?

二十歳くらいの時に宇多田ヒカルさんの「Automatic」を歌ったのを録音して、初めて自分の歌声を聞いたんです。そしたら、あまりにもヘタで。それまでは歌は上手いと思い込んでいて、自信たっぷりだったんです。でも、録音を聴いてめちゃくちゃ落ち込んでしまって。そこから、「自分なりの歌い方があるかもしれない」って頑張り始めました。デビューしてからも、ずっとそうでしたね。普通に歌うとヘタだから、歌詞も歌い方も自分にしかできないものを探さないといけないと思ってきた。でも、この映画に出たことで、それが少し変わったんです。

 

ーというと?

もっと素直に歌ってもいいんじゃないかって思えるようになったんです。素直に歌っても良い反応が返ってくることが今回の映画でわかったので。でも、そう思えるようになったのは、自分なりの歌を探していた時期があったからこそで。そういう時期を経て、ようやく納得できるようになったんだと思います。それって、これまで自分は似合わないと思っていたパンプスを履いてみたら意外と似合ってた、というのと近いかもしれないですね。

 

ー気がついたら身長が伸びていた、みたいな。

そうそう! 顔の感じも変わっていて、昔は全然似合ってなかったドレスが今はちゃんと着れる、みたいな。いろいろやっているうちに気がついたら成長していて、昔できなかったことができるようになっていた。そのことをこの映画が気づかせてくれたんです。

 

 

ーこの映画は中村さんにとって大きな出会いだったんですね。中村さんは6月に1年半ぶりに観客を入れたコンサートを開催されましたが、その際、「こういう大変な時期に歌えることに幸せを感じています」とおっしゃっていたのが印象的でした。この時代に歌を歌うことについては、どんな風に思われていますか?

こういう大変な時代って、これまでの歴史の中にいろいろあったと思うんですよ。そういう時に自分ならどんな歌を歌うんだろう? ということが、昔からずっと気になっていたんです。最近、改めて〈なんで私は歌ってるんだろう?〉〈なんでライヴをするんだろう?〉って考えたりもしていて。こういう大変な状況のなかで作品を作れる。歌える、ということは、すごくありがたいと思っているんです。

 

ーどんなに大変な時代でも、様々なアーティストが悩みながら作品を作ってきた。こういう時代だからこそ、求められている、作ることができるアートがあるのかもしれないですね。

この映画もそうだと思うんですよ。この映画は、大変な時でも音楽や映画を作ることをやめない人たちを、優しく見守っている作品だと思っていて。映画のなかで、すずが泣いたり、笑ったり、変なことをしても、周りの人たちは肯定して見守っている。そういう優しさを、監督は映画や歌を通じて見せてくれているような気がして。だから、こういう大変な時にこそ、たくさんの人に観てもらいたいですね。

 

 

model_Nakamura Kaho
photograph_Osada Kasumi
interview & text_Murao Yasuo
edit_Takehara Shizuka

 

細田 守監督最新作!映画『竜とそばかすの姫』

7月16日(金)より全国ロードショー

©2021 スタジオ地図

 

 

原作・脚本・監督:細田 守

キャスト:中村佳穂 成田 凌 染谷将太 玉城ティナ 幾田りら
森山良子 清水ミチコ  坂本冬美 岩崎良美 中尾幸世
森川智之 宮野真守 島本須美
役所広司 / 石黒 賢 ermhoi HANA / 佐藤健

メインテーマ: millennium parade × Belle 『U』(ソニー・ミュージックレーベルズ)

衣装:伊賀大介 / 森永邦彦 篠崎恵美

企画・制作:スタジオ地図

©2021 スタジオ地図
https://ryu-to-sobakasu-no-hime.jp/

 

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